はじめに

 

 この図鑑では,千葉県柏市「大青田の森」を中心に関東地方で採取した67種を取り上げ解説する.関東地方からは土生昶申による724 種の採集記録があるが(吉武ら2011*1、Osawa et al. 2014*2),今回はそのうちの一部であり今後順次追加していく予定である.内容は,一般市民でも同定が可能となるように判りやすく写真付で形態の特徴を記述した.また形態の特徴に加え,一部の種については,生態的特徴も記載した.こちらも今後追加予定である.

 

*1:吉武啓・栗原隆・吉松慎一・中谷至伸・安田耕司(2011)農業環境技術研究所所蔵の土生昶申コレクション(昆虫綱:コウチュウ目:オサムシ科)標本目録. 農業環境技術研究所報告 28号 1-326.

*2:Takeshi OSAWA, Kyohei WATANABE, Hiroaki IKEDA, Shori YAMAMOTO1(2014) New approach for evaluating habitat stability using scarce records for both historical and contemporary specimens: a case study using Carabidae specimen records. Entomological Science 17:425-431.

 

1. 市民との協働調査にむけて

 

 NPO法人ちば里山トラストが管理する「柏市大青田の森」の一角で、筆者らは里山の生物相の調査を行ってきた(詳細な調査方法と結果は別冊「柏市大青田の森の里山管理と生物相‐長期モニタリングのために‐」を参照).その結果,里山管理に伴う地表徘徊性甲虫の短期的な変化を明らかにすることができたが,長期的な変化を明らかにするためには,今後地表徘徊性甲虫群集を定期的にモニタリングしていくことが必要である.今回の短期的調査(2010年~2014年)は東京大学を中心に行ったが,今後は,実際に本調査地の管理を行っているNPO法人ちば里山トラストの皆さんとの協働作業として,モニタリングを実施していく予定である.モニタリングは,1)一定の調査法で実施し、その結果2)どのような種がどれだけ出現したかを記録することである.そこでは種の同定がきわめて重要である.もちろんその調査結果を読み解くことがその次のステップとして重要だが(後述),同定が正しくなければ正しい考察はありえない.たかが同定、されど同定なのである. 地表徘徊性甲虫の研究を始めた時に感じたことは、近縁の種を見分けることの難しさである.そこで本図鑑では初心者でも同定ができるように,おおまかな検索表をつけるとともに,近似種との識別ポイントを実物写真で説明した.地表徘徊性甲虫にかかわり始めてから約10年間にわたる自身の経験とその時々のメモ書き等の蓄積をまとめたものである.

 

2. 生態的特徴を加えた図鑑

 

 上記に加えて,調査結果を読み解くためには各種の生態的特性を知ることが不可欠であるため,今回は生態の記述も加えた.未発表データが多いため,ここに掲載したのはごく一部の種だが,随時増やしていく予定である.

 地表徘徊性甲虫は、生息地の環境変化に鋭敏に反応するため、英国でEnvironmental Change Networkのモニタリングに使用されるなど指標生物として注目されており,日本でも環境指標生物としてモニタリングが開始されている(環境省モニタリング1000).今でこそ,このように地表徘徊性甲虫は日本でも注目されるようになったが,これらは別名「ゴミムシ」と呼ばれることからもわかるように,オサムシ亜科に属する一部の大型美麗種を除けば,害虫でも益虫でもない「ただの虫」にも劣る扱いを受けてきたため,その生態についてはほとんどわかっていない.そのため地表徘徊性甲虫のモニタリングが行われても,なぜ環境変化に鋭敏に反応するのかといった要因がわからないために,生息地での出現頻度から「森林性種」「草地性種」などの種群に分類されるだけに止まってしまっていることが多い.本書に一部示したような各種の生態的特性がわかってくれば,モニタリングの結果もさらに一歩進んだ解釈が可能となることが期待される.

 

 なお柏市「大青田の森」での生物相モニタリングと本書の印刷は、「明るい低炭素社会の実現に向けた都市変革プログラム」(文部科学省 科学技術振興機構)の支援のもと、福田健二先生によって推進された.本書を完成させるにあたり,以下の方々にご協力をいただいた.桐谷圭治先生には,本図鑑の最終校閲,並びにその作成に当たり多くの有用なアドバイスをいただき、さらに生態的特徴を記載する点において励ましを頂戴した.種の同定は久保田耕平先生にご指導頂き,それを基に現物標本と保育社の図鑑を参考にした.また本図鑑を印刷するにあたり,各種の学名を再度ご確認いただいた.矢島民夫氏と森廣信子氏には,標本の写真撮影にご協力頂いた.大澤雅彦先生とZaal Kikvidze先生には地表徘徊性甲虫の研究をスタートさせるにあたり後押ししていただいた.本プログラムのメンバー(プログラム代表の飛原英治先生,農業・緑地計画前グループリーダーの横張真先生をはじめグループの先生方),NPO法人ちば里山トラストの皆様,柏市役所公園緑政課の皆様,そして調査を手伝っていただいた研究室の皆様にこの場を借りて厚くお礼を申し上げる.最後に,市民の立場からコメントいただいた渋谷富義氏,渋谷果礼氏,そして長年応援してくれ本プログラム推進中に亡くなった関好造氏,関安子氏に深く感謝したい.

 

2014年12月

東京大学 大学院新領域創成科学研究科

自然環境学専攻 自然環境評価学研究室

渋谷 園実

 

 


 

 

本書の見方

 

1. 採集データ

 

-月日・年,採集グリッド名*,雌雄,体長

-採集場所は多くが「大青田の森」であるが,一部他の地域で採集した種も載せた(その場合採集場所を採集データの下に記載).なお記載のないものはすべて「大青田の森」である.

-採集方法はピットフォールトラップ(落とし穴式の甲虫トラップで,餌などの誘引物質は使用せず)だが,一部はマレーズトラップ,衝突板トラップで飛翔個体を捕獲した.該当の種は,採集データの下に捕獲方法として記載した.

-大型・中型・小型の記載については以下の通りとした

 大型:体長が20mm以上の種

 中型:体長が10mm-20mm,なお中型は記載を省略

 小型:体長が10mm未満

*採集グリッド名については,別冊の「柏市大青田の森の里山管理と生物相‐長期モニタリングのために‐」を参照.

 

2. 参考文献

 

本文中の斜体文字での記述は,以下の文献の記載を参照した.

-斜体文字で無印のもの:上野俊一・黒澤良彦・佐藤正孝編著(1985)原色日本甲虫図鑑(Ⅱ),514pp.,保育社

-*1:琵琶湖博物館WEB図鑑 里山のゴミムシ

(http: http://www.lbm.go.jp/emuseum/zukan/gomimushi/:2014年10月26日確認)

 

3. その他の説明

 

-多数捕獲できた種のうち,その一部について季節消長を掲載した.他の種についても随時追加予定である.

-捕獲数の少ない種については,捕獲場所と時期を記載した.

-卵の数については、採集データに記載した解剖個体についての情報である点をご了承願いたい

 

 


 

 

初心者向け仕分け法

 

 調査の現場でまず必要となるのは,回収してきた虫を同定することである.できれば種毎に分別したいが,地表徘徊性甲虫をいきなり種レベルで同定するのは難しい.また、科や亜科、属などの分類群の区別も初心者には難しいと思われる.そこでとりあえず似ているものを,大きさと色,形で以下の手順で仕分けをしていくことを勧める.

 具体的には今回記載した67種を分別していく手順を以下に示す.

 

1. 大きさで(大・中・小のレベル)分別

 

 目安としては以下の通り

大型:体長が20mm以上の場合

中型:体長が10mm-20mm

小型:体長が10mm未満

1)大型

 以下の13種が該当するので,大きい場合はまずこれらの種を確認する.

1. クロカタビロオサムシ,2. アカガネオサムシ,3. アオオサムシ,4. クロナガオサムシ,5. セアカオサムシ,6. マイマイカブリ,9. ムラサキオオゴミムシ,10. アカガネオオゴミムシ,11. オオゴミムシ,33. オオゴモクムシ,47. オオスナハラゴミムシ,48. スジアオゴミムシ,63. クロシデムシ

2)小型

 以下の13種が該当するので,小さい場合はまずこれらの種を確認する.

8. ヒラタマルゴミムシ,22. ヒメツヤヒラタゴミムシ,23. マルガタツヤヒラタゴミムシ,24. ニセマルガタゴミムシ,25. マルガタゴミムシ,26. コマルガタゴミムシ,40. アカアシマルガタゴモクムシ,42. クビナガゴモクムシ,43. ハネグロツヤゴモクムシ,45. クビアカツヤゴモクムシ,46. イツホシマメゴモクムシ,58. トゲアトキリゴミムシ,59. アオアトキリゴミムシ

3)中型

 大型と小型を除く41種が該当する.

 

2. 色で分別

 

1)黒色以外

 体全体(頭部・前胸背板・前翅),あるいはどこか一部分でも色彩のあるもの,斑紋があるものを分別する.

2)ほぼ黒色

 体(頭部・前胸背板・前翅)が黒一色のもの.なお肢のみが褐色の場合はこちらとする.次に,光沢の有るものと少ないものに分けるが,同じサイズの対象種を振り分けるための相対的な比較である点をご了承願いたい.

 

3. 形状で分別

 

上記の大きさと色でおおまかに振り分けた後に,形状で調べていく.亜科レベルまで絞り込めたら,その後は本図鑑の詳細な判別法を利用して,最終的な種を同定する.

 

次ページにフローチャートを添付したので,参照されたい.

 

 

サイズ
大型(13種)
1. クロカタビロオサムシ,2. アカガネオサムシ,3. アオオサムシ,4. クロナガオサムシ,5. セアカオサムシ,6. マイマイカブリ,9. ムラサキオオゴミムシ,10. アカガネオオゴミムシ,11. オオゴミムシ,33. オオゴモクムシ,47. オオスナハラゴミムシ,48. スジアオゴミムシ,63. クロシデムシ
小型(13種)
8. ヒラタマルゴミムシ,22. ヒメツヤヒラタゴミムシ,23. マルガタツヤヒラタゴミムシ,24. ニセマルガタゴミムシ,25. マルガタゴミムシ,26. コマルガタゴミムシ,40. アカアシマルガタゴモクムシ,42. クビナガゴモクムシ,43. ハネグロツヤゴモクムシ,45. クビアカツヤゴモクムシ,46. イツホシマメゴモクムシ,58. トゲアトキリゴミムシ,59. アオアトキリゴミムシ
中型(41種)
上記「大型」「小型」以外の種
黒色以外
ほぼ黒一色
1. クロカタビロオサムシ,2. アカガネオサムシ,4. クロナガオサムシ,6. マイマイカブリ,11. オオゴミムシ,33. オオゴモクムシ,47. オオスナハラゴミムシ,63. クロシデムシ
黒色以外
ほぼ黒一色
8. ヒラタマルゴミムシ,22. ヒメツヤヒラタゴミムシ,23. マルガタツヤヒラタゴミムシ,26. コマルガタゴミムシ,40. アカアシマルガタゴモクムシ,42. クビナガゴモクムシ,58. トゲアトキリゴミムシ
黒色以外
ほぼ黒一色
上記「黒色以外」に当たらない23種