樹木木部における通水阻害の進展および解消機構の解明

betula

図.(A) シラカンバ(Betula platyphylla var. japonica)でのMRI撮像の様子. (B) イヌシデ(Carpinus tschonoskii)の木部横断面のcryo-SEM画像.矢印は水で満たされた通水している道管,矢じりは空洞化し通水機能を失っている道管. (C) イヌシデの木部横断面の蛍光顕微鏡画像.幹に染料を流すと通水している道管だけが赤く染まる.


植物は,葉からの失水(蒸散)を駆動力として,通水組織(道管や仮道管)を通して陰圧の下で根から葉まで水を引き上げています.このとき,通水組織内の水は陰圧下にあります.土壌の乾燥化など,植物をとりまく水分条件が悪化し,葉の水分要求性が高まると,通水組織内の水にかかる陰圧が高まります.さらに樹体の乾燥が進むと,最終的に通水組織が空洞化し(キャビテーション),通水が阻害されてしまいます.通水機能の低下は葉への水分供給性の低下,さらには光合成といった生理機能の低下をもたらすことから,生存期間が長い樹木にとって,根から葉に至るまでの通水機能を長期的に維持することは,生命活動を継続する上で不可欠です.

これまで,樹木は気孔の開閉調節により葉の乾燥を防ぎキャビテーションを回避していると言われてきました.しかし,近年の研究から,樹木が気孔調節をもってしても日常的にキャビテーションリスクにさらされていることや,日常的に(もしくは不可避に)通水阻害が生じても水分条件が改善されると(例えば夜間など)通水機能が回復するといった新たな報告が増えつつあります.本研究では,樹木生理学的手法(例えば図A)と木材解剖学的手法(例えば図B,C)を組み合わせて,乾燥の進行と解消の両側面から,樹木木部における通水阻害の進展および解消機構の解明を目指しています.このような樹木の通水機能に関する研究から,環境変動に対する樹木の応答評価だけでなく森林スケールでの水収支を考える上でも基礎的知見となることが期待されます.

key topics: Tree physiology, Tree water transport, Plant water relation, Xylem anatomy, Drought tolerance.

小笠 真由美(Mayumi OGASA)
(2013/10/8)