植物のほとんどの根には「菌根菌」と呼ばれる菌類が共生しています。この菌類が植物根に感染すると、根内に独特の構造を作るほか、根の外に菌糸を伸ばします。菌根菌は植物が光合成で作った炭素化合物をもらう代わりに、土壌から栄養分(リンやミネラル、アミノ酸など)を吸収して植物に与えることで、植物と菌類お互いにメリットのある共生関係を築きます。そして、栄養吸収の効率が劇的に改善するので、植物の成長に及ぼす影響も大きいのです。
図.セイタカアワダチソウの根に感染したAM菌. arbuscule:樹枝状体、vesicle:のう状体、hyphae:根内菌糸. bar:50μm.
草本植物種の約9割の根にはアーバスキュラー菌根菌(以下、長いのでAM菌と省略します)と呼ばれるタイプの菌類が共生しています 。AM菌は、根内で菌糸の他に樹枝状体とのう状体と呼ばれる構造を作ります(右図参照)。植物種の大半に共生することができるこの菌類ですが、環境中の様々な因子の変化に敏感で、たやすく群集構造や感染率などが変化してしまうことが分かっています。そこで、現在では様々な環境でAM菌の群集構造の解析が進められていますが、ケースが少なく、まだよくわかっていないことも多いのが現状です。
攪乱が起きて生物がいなくなった環境に植物が定着する場合、土壌の栄養分が乏しく、植物自身では栄養を賄いきれない場合があります。そのような環境ではAM菌の共生が植物に与える影響は大きいと考えられます。しかし、植物の定着の際にどの菌種がよく共生しているのか、どのように働くのかについてはまだ明らかにされていません。そこで僕は、攪乱が起きた場所に定着する植物に、どのようなAM菌が共生してどのような影響を及ぼすのか、菌種の傾向や作用を探ることをテーマにしています。現在、以下の2つのタイプの攪乱地で調査しています。
河川敷は、氾濫・増水による攪乱がしばしば起きる、植物にとって生育しにくい環境です。氾濫・増水の影響の大きさが異なる水際と外縁では、AM菌の群集に違いはないのか。特に水際は、攪乱の頻度が高く、植生を素早く回復させるのにどのようなAM菌が関わっているのかについて注目しつつ、河川敷内から複数種の植物を採取して、その根に共生するAM菌の菌相を解析しています。
富士山南東斜面は、1707年の大噴火によって火山性噴出物(スコリア)が堆積し、植生が消滅しました。現在では、先駆植物であるイタドリがスコリア裸地にパッチ状に点在しています。このパッチ内で、植物相が次第に豊かになっていくのですが、その遷移過程において、AM菌は植物種が定着するのにどのような作用をしているのか、まだ分からない点が多数あります。そこで僕は、先駆的に定着する植物にAM菌を共生させ、その株から異なる距離に、遷移後期で現れる植物の種子を撒き、後期遷移種の成長が距離によってどう異なるのか、栽培実験を行って調べています。
宮田 正規(2012/5/1)