マツ材線虫病における通水阻害進展過程の解明

コンパクトMRI

図.コンパクトMRI装置(撮影中の試料はハクウンボク).


植物は葉の蒸散で消費した水分を木部の通水組織(道管や仮道管)を通じて補っている.通水組織内の水は,葉で生じたより高い負圧により引っ張られて移動するため,野外の植物は渇水などの過度の水ストレスや冬季の凍結ストレスにより通水組織内の水柱が切れる(通水阻害)場合がある.しかしながら,マツノザイセンチュウが侵入したマツ類では,水ストレス下にさらされなくても通水阻害が起き,萎凋枯死する.

マツ材線虫病の萎凋枯死機構に関する研究は,多数報告されているが,マツノザイセンチュウが樹木内へ侵入した直後から枯死までの通水阻害進展過程については,十分な説明がなされていなかった.この理由として,樹体内に侵入したマツノザイセンチュウはマツ類の通水組織(仮道管)内ではなく,樹脂道を主に移動経路として樹体内を比較的自由に移動するため病原体の分布と通水阻害の発生について統一的見解を示すことができなかった.さらに,これまでの通水阻害領域の調査方法として立木染色法などの破壊的手法が一般的であったため,個体間の病徴のばらつきも問題となっていた.

本研究室では,マツ材線虫病通水阻害進展過程を解明するために0.3Tのcompact MRIを使用した非破壊経時観察法を確立し,枯死プロセスの統一的見解を示すため研究している.

梅林 利弘(2012/6/26)