温帯林における樹木葉内生菌群集の生態について

内生菌(endophytic fungi)は、「生活環のある時期において、病徴を現すことなく、生きた宿主植物の組織内に生息する生物」であり、特に真菌類を指します。草本性植物の内生菌として良く知られるイネ科に特異的なバッカクキン科(Clavicipitaceae)に属する菌は、宿主にとって有利に働く、多くの生物的効果が知られており内生菌接種芝生苗の販売など農業分野では既に応用されています。一方、葉、樹皮、根などの組織器官ごとに異なる種が優占する木本植物の内生菌は、単一菌種が全身に感染している草本植物の内生菌とは生活環や生態的役割が大きく異なると考えられ、草本の場合のように宿主と相利共生関係にあるかどうかは明らかではありません。いくつかの針葉樹や広葉樹において、主要な内生菌が病害や虫害の発生に抑制的に働くという結果が報告されています。内生菌の分布や生態などの基礎データについて、詳しく調べられているのはマツ科、ブナ科など限られていて、不足しているのが現状です。

内生菌培養菌叢とカツラ葉

図. 上図 表面殺菌法での内生菌分離試験(左, 培養前;右, 培養後). 左下 シラカシ優占菌2種の対峙培養. 右下 カツラ梢端枯れ症状の葉内菌の探索.

樹木内生菌の主な感染は胞子による水平伝播であるため、感染時に必要な条件である気温、湿度、降水量については比較的多く研究され、同樹種であってもそれらの違いで優占菌種が異なったという報告があり、それらの要因は重要視されてきました。しかしながら感染源である胞子量、それに関連する要因例えば感染個体数や周囲環境等の生物的要因の影響については研究例が少なく、系統分類学的にも多様な樹木が混生する森林環境では、生物的要因が内生菌群集へ及ぼす影響が強いと考えられます。

同所的に生育する複数樹種の葉内生菌相を比較することにより,内生菌種ごとの宿主選好性の程度を明らかにし、山地の森林と都市化した地域の孤立林の樹木内生菌相の比較を行いました。その結果、樹種によっては、都市化した柏で、宿主選好的な菌群が減少し、共存する他の樹種と共通するジェネラリストの菌群に置き換わっていました。この結果と柏の内生菌感染率の低さは、林分の孤立化や都市化によって、内生菌相が悪影響を受けていることを示唆する結果でした。現在は内生菌群集について、葉内分布、構成樹種、林分履歴の違いから空間的分布と葉齢、季節、年次の違いの比較から時間的変化を捉えるため、フィールド調査、形態分類、DNA解析と日々奮闘しています。共進化を遂げてきた宿主特異的菌により着目し、宿主樹木と内生菌群集の結びつきから、森林生態系についてよりよく理解することを目的としています。


松村愛美(2012/5/1)